管理医療機器の磁気ネックレスに
使われるは「永久磁石」
▲管理医療機器の磁気ネックレスの説明書を見ると、「一般的名称:家庭用永久磁石磁気治療器」と書かれています。
磁石の分類〈永久磁石と電磁石〉
磁石には、永久磁石と電磁石があります。電磁石は、電流を流すことで磁力を持つ磁石です。電流の向きや大きさを変えることにより、磁極の向きや磁力の強さを変えることができます。同じサイズの永久磁石よりも大きな磁力を得られる他、電流によって磁力のオンオフ、磁力の大きさを制御できるため、スマートフォンなどの精密機械から電車などの大型機械の動力まで広く産業利用されています。
磁気ネックレスに使われている永久磁石
磁気ネックレスに使われる磁石は永久磁石です。永久磁石は、外部から磁場や電流の供給を受けることなく、磁石としての性質を比較的長期にわたって保持し続ける物体です。永久磁石は、一般的に鉄、ニッケル、コバルト、アルミニウム、セラミックスなどの常磁性材料で作られています。
永久磁石の磁力は長期間にわたって安定しているため、一度磁化されたら外部の磁場がない限り、その磁力はほぼ変化しません。ただし、一部の永久磁石は熱、強力な磁場、衝撃、熱の影響を受けやすいことがあります。
永久磁石の寿命は半永久
別のコラムにも書きましたが、永久磁石も永久に磁力が続く訳ではなく、自然減磁といって徐々に磁力が失われてゆきます。しかし、磁石の種類にもよりますが自然減磁は数十年から百年で数パーセント~10パーセント程度というわずかなものですので、磁気ネックレスとしての一般的な用途では半永久的に使えると考えて構いません。
磁気ネックレスに使われる様々な種類の永久磁石
フェライト焼結磁石
フェライト磁石は、主に酸化鉄と他の金属酸化物を主成分とする磁性セラミックスです。粉末状の原材料を成型し焼結生産されますが、酸化鉄が主成分のため安価に製造することが可能です。フェライト磁石の磁力は比較的に低いものの、製造コストが低く抑えられます。またフェライト磁石は、酸化鉄で構成されているため耐久性に優れる(錆にくい)特徴があります。このような事からフェライト磁石は広範な用途に使用されています。小学校でよく見る棒磁石、馬蹄形磁石、玩具用や模型用のモーター部品なども多くがフェライト磁石です。
錆びにくくコストパフォーマンスに優れる事から、磁気ネックレスの分野でも従来から多用されてきました。しかし、近年は磁力の強さを重視する流れがあり、次項目で説明するような高磁力の磁石を使う製品も増えてきました。
▲(1)フェライト磁石(錆びにくいが磁力は低め)
(2)ネオジム磁石(磁力は高いが錆びやすい※写真は表面をコーティング済み)
(3)サマリウムコバルト磁石(熱に強くネオジム磁石に次ぐ磁力、錆にくい)
(4)ボンド磁石(自由に成型可能、ボンドの割合分焼結磁石よりも磁力は弱い、ボンドで守られるので錆に強い)
ネオジム焼結磁石
ネオジム磁石は、希土類元素の一つであるネオジム(Nd)、鉄(Fe)、ボロン(B)の化合物で構成される強力な永久磁石です。ネオジム磁石は、高価な希土類を使用していることから製造コストが高価になりますが、様々な永久磁石の中で最も強力であり、フェライト磁石など他の一般的な磁石よりも10倍以上の磁力を持ちます。このためネオジム磁石は、高性能な磁石として多くの産業や製品に使用されています。ただし熱に弱く、通常約80℃以下が使用条件となります。産業用途として電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HV)のモーターに、ネオジム磁石や次の項目で説明するサマリウムコバルト磁石といった高磁力の磁石が用いられています。
一方で、ネオジム磁石は一般的に錆びやすいとされます。鉄は錆びる(酸化する)と、重量・体積が増します。一旦錆びが発生すると周囲の磁性材に広がってゆき、結果磁石の形状が保てないほど破裂崩壊してしまいます。このことから、ネオジム磁石には酸化防止のための保護コーティングを必要としており、通常ニッケルメッキを施します。このため高い素材コストに加えて製造コストをさらに上げてしまうことにつながっています。
なお、ネオジム磁石の磁力は非常に高いことから、取り扱いに注意が必要です。磁石同士が強く吸着してしまい間に挟まれてけがをする危険性があります。また、磁力の高さから小さくできるという事もあり、誤飲による事故に気をつける必要があります。強い磁石の誤飲は極めて危険です。2個以上の小さな磁石を飲み込んでしまうと腸管壁を隔ててつながる恐れがあるからです。この場合腸管の圧迫壊死による穿孔や穿通(腸管に穴が開いてしまう)、瘻孔形成・腸管ループ形成による腸閉塞などの原因となってしまいます。摘出、小腸部分切除などの手術を要する重篤な症状となりますので、「小さく強力な磁石は大変危険なもの」という認識を持って、特に乳幼児やペットに対して適切な保護管理を講じるなど細心の注意をはらう必要があります。
サマリウムコバルト焼結磁石(略称:サマコバ磁石)
サマリウムコバルト磁石(Samarium Cobalt Magnet)は、希土類元素ランタノイドの一つであるサマリウム(Sm)とコバルト(Co)の合金から作られる強力な永久磁石です。略してサマコバ磁石と呼ばれることもあります。サマリウムは産出量が少なく非常に高価です。またコバルトは国際的に価格の変動が激しいことも問題となります。このようなことで、サマリウムコバルト磁石ネオジム磁石よりも高価ですが、次に挙げるメリットから一部の用途ではなくてはならない磁石といえます。
サマリウムコバルト磁石は、ネオジム磁石に次ぐ高い磁力を持ちながらも、高温に対して高い耐性があります。最大使用可能温度は250~350℃にも及びます。また、耐蝕性も優れており一般的には表面処理が不要とされています。これらの特性から、高温環境や厳しい条件下での使用が必要な産業用途の状況で多く利用されています。
ネオジム磁石に次ぐ高い磁力ながら錆にくいという特徴から、一部の磁気ネックレス製品に採用されています。
また、サマリウムコバルト磁石もネオジム磁石のように小さく磁力の強いものですので、ネオジム磁石同様、誤飲事故に注意する必要があります。
ボンド磁石
上記の3項目は材料を焼き固めた焼結磁石であって、その中での磁性材による分類でした。ボンド磁石は製造方法・構造による分類になります。ボンド磁石は、磁性粉体と樹脂などのバインダー材料を組み合わせて作られた磁石であり、一般的に「ゴム磁石」と呼ばれている種類の磁石です。磁性粉体がバインダー材料(樹脂)によって固められていることから、特定の形状やサイズに成形され、また必要に応じて切断などの加工が可能です。
バインダー材料によって機械的な強度や耐久性を向上させることが可能です。特にバインダーにより守られることから耐腐食性(錆耐性)は高くなります。僅かではあるものの表面に露出する磁性材は錆びることがありますが、バインダーにより錆が周囲に広がることを防ぐことができ、磁石全体が崩壊してしまうような深刻な事態は防ぐことができます。
一方で、樹脂などのバインダー材料の比率が一定以上必要であるため、磁性材を固めた磁石と比較するとどうしても磁力は低くなってしまいます。しかし、ネオジムやサマリウムコバルトなど磁力の強い磁性材を用いる事で磁力の点でもある程度強力な磁石を作れるようになってきました。
磁気ネックレスにおいては、ループ全体を1本のボンド磁石にすることで、ループ全体がフレキシブルな(しなやかに形状が変化する)磁石という製品を実現しています。
大分類 | 永久磁石 |
中分類 | 焼結磁石 | 樹脂結合型磁石 |
名称 | フェライト磁石 | ネオジム磁石 | サマコバ磁石 | ボンド磁石 |
磁力 | 弱い | 最も強い | 強い | 磁性体によるが 焼結磁石よりやや弱い |
耐久性 (錆びにくさ) | 高い | 弱い 要コーティング | 高い | 高い |
その他特性 | | 磁力が高く 小型化可 | 磁力が高く 小型化可 | 弾性特性 |
価格 | 安価 | 高価 | 高価 | 磁性体による/ 焼結磁石よりやや高価 |
磁石の強さ(磁力) = 磁束密度
磁気ネックレスの磁力の単位はミリテスラ
永久磁石の磁力の強さは、磁石によって発生する磁場の特性によって表されます。磁力の強さは一般的に「磁場の磁束密度」で表します。
磁束密度とは、磁束がある単位面積あたりに含まれる量のことです。国際単位系(SI)では、磁束密度の単位はテスラ(T)です。1テスラは、1平方メートルあたりに1ワットの電力を持つ1アンペアの電流が流れたときの磁束密度を示します。磁気ネックレスの磁石はより小さい単位であるミリテスラ(mT)で表します。※1テスラ=1,000ミリテスラ
▲磁束密度計(テスラメーター)で磁石表面の磁束密度を測定している様子です。プローブと呼ばれる探針をあてた場所の磁束密度がピンポイントで表示されます。磁石や製品全体の磁力というわけではありません。写真の例は大きなサマリウムコバルト磁石の表面をピークホールド機能で測定していて、最大磁束密度が406mTと表示されています。
日本産業規格(JIS T2007:2018)において、磁気ネックレス(家庭用永久磁石磁気治療器)の最大磁束密度は35~200mTと定められています。つまり、最も磁力が高い製品を希望するのであれば200mTの磁石を使用している製品を選べばよい事になります。しかしコリの位置に磁石の位置があっているなど他の要素も関係するようで、必ずしも200mTでなければならない訳でもないようです。ざっくりとしたイメージになりますが、100mT程度以上であれば磁力が高めの製品と考えてよさそうです。中程度の磁力なら50mT~100mT程度の製品を選ぶことになります。なお、磁力が強すぎてのぼせるという方もいらっしゃいますので、初めは低めの磁力の製品から試すのがよいかもしれません。
ところで、磁束密度の数字のお話しをしましたが、「感覚的にどのくらいの強さなのかわからない」ということになると思いますので、最後に目安をお伝えしておきます。わかり易いところでいうと、一般的な冷蔵庫のドアに使われている磁石(パタンと閉って扉を軽く固定する磁石)は5~10mT程度の強さになります。ただし、帯状のゴム磁石ですので接触面積はかなりあります。一桁上の100mTになると日常生活で一般的に見られる磁石よりもかなり強力になります。特定の科学実験や産業技術製品に使われるレベルになります。このような強さになりますから、100mTは管理医療機器の上限の半分と言ってしまえばその通りですが、かなり高い磁力だと言えます。
磁気ネックレスを近づけてはいけないもの
- 特に密着は厳禁 -
既にお伝えしたように、生活環境にある様々な磁気製品の中でも磁気ネックレスの磁力はかなり高いものと言えます。このため磁力により影響を受けてしまうものには近づけないようにする必要があります。特に密着してしまう状況は影響が大きいので、外出時に鞄にしまう際などには気を付けてください。なお、磁気ネックレスの磁力程度であれば、密着させずに数センチメートルも離せば磁力の影響は相当小さくなります。つまり、磁気ネックレスを着けてスマートフォンを操作するといった状況では全く問題ありません。
キャッシュカードなどの磁気カード・通帳
磁気カードや銀行の通帳には磁気テープが使われています。磁気テープには磁力によって必要な情報が記録されています。磁石を近づけると情報の読み取りができずに、カードや通帳が使えない事態になってしまいます。とにかく、磁気ネックレスに密着させないことが重要です。できればキャッシュカード保護ケースを使用すれば安心です。これに対して、ICカードは磁気の影響を受けません。交通系ICカードなどがこれに相当します。
腕時計
特に機械式腕時計は磁気に弱いと言われています。ムーブメントのパーツが磁気を帯びてしまい、パーツの動作に悪影響を及ぼして精度不良が発生してしまいます。もしこのような状況になってしまった場合は、腕時計メーカーや修理店に持ち込み修理を依頼してください。専門業者は脱磁機を使用して脱磁をします。
スマートフォン
フタの開閉に磁石が使われているスマートフォンケースがあるように、スマートフォンはある程度の磁力では問題ないように設計されています。しかし強い磁力が加わることで、電子コンパス、手ぶれ補正、カメラのピント調節部品などに影響が発生することがあります。磁気ネックレスの磁力はかなり強いため、スマートフォンには近づけないように(特に密着させないように)してください。鞄の中やテーブル上に置くときなどに密着しないように注意すればよいと思います。
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